事業者が実施する健康診断

対象者・実施時期・参考法令について

健康診断と各種法令

事業者が実施する健康診断の種類・対象・実施時期・根拠法令のまとめです。

実施者 区分 健康診断
事業者 一般健康診断 法定健康診断 定期健康診断
雇入時の健康診断
特定業務従事者の健康診断
海外派遣労働者の健康診断
給食従業員の検便
深夜業従事者の自発的健康診断
労災保険の二次健康診断
特殊健康診断 法定健康診断 有機溶剤健康診断
特定化学物質健康診断
電離放射線健康診断
除染等電離放射線健康診断
じん肺健康診断
石綿健康診断
酸等取扱い者の歯科健康診断
高気圧業務健康診断
鉛健康診断
四アルキル鉛健康診断
指導勧奨による健康診断 情報機器作業健康診断
腰痛健康診断
騒音作業健康診断
振動業務健康診断
上肢作業健康診断
その他
健康管理手帳所持者に対する健康診断
事業者または国 福島第一原子力発電所事故緊急作業者健康診断
一般健康診断(法定健康診断)

(1)定期健康診断(労働安全衛生規則第44条)

定期健康診断は、事業者が常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、医師による健康診断を定期的に実施することを義務付けた制度です。労働者の健康状態を継続的に把握し、疾病の早期発見や健康障害の予防を図ることを目的としており、医師の判断により一部検査項目の省略が認められる場合もあります。
常時使用する労働者 1年以内毎に1回、定期に実施
労働安全衛生規則 第44条

(2)雇入時の健康診断(労働安全衛生規則第43条)

雇入時の健康診断は、事業者が新たに常時使用する労働者を雇い入れる際に、医師による健康診断を実施することを義務付けた制度です。就業開始前に労働者の健康状態を把握し、業務への適正配置や健康障害の予防を図ることを目的としており、雇入れ時に確実な実施が求められます。
新たに雇い入れる常時使用する労働者 雇い入れ時
労働安全衛生規則 第43条

(3)特定業務従事者の健康診断(労働安全衛生規則第45条)

特定業務従事者の健康診断は、高熱・低温作業、有害放射線、粉じん、騒音、深夜業など、健康障害のおそれが高い業務に従事する労働者を対象に実施される健康診断です。配置替え時および6か月以内ごとに定期的に行い、業務特有の健康リスクを早期に把握し、適切な健康管理を行うことを目的としています。
下記業務に従事する者(労働安全衛生規則第13条第1項第3号) 配置替えの際、6か月以内毎に1回、定期に実施
労働安全衛生規則 第45条
① 多量の高熱物体を取り扱う業務および著しく暑熱な場所における業務
② 多量の低温物体を取り扱う業務および著しく寒冷な場所における業務
③ ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
④ 土石、獣毛等のじんあいまたは粉末を著しく飛散する場所における業務
⑤ 異常気圧下における業務
⑥ さく岩機、鋲打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務
⑦ 重量物の取扱い等重激な業務
⑧ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
⑨ 坑内における業務
⑩ 深夜業を含む業務
⑪ 水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、苛性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
⑫ 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気または粉じんを発散する場所における業務
⑬ 病原体によって汚染のおそれが著しい業務
⑭ その他厚生労働大臣が定める業務

(4)海外派遣労働者の健康診断(労働安全衛生規則第45条の2)

海外派遣労働者の健康診断は、6か月以上海外に派遣される労働者、または長期海外勤務後に帰国する労働者を対象に実施されます。派遣前および帰国後に健康状態を確認し、海外特有の環境や生活条件による健康影響を把握するとともに、円滑な業務復帰と健康確保を目的としています。
海外への派遣労働者、海外からの帰国労働者 労働者を6か月以上海外に派遣しようとするとき、または6か月以上海外勤務した労働者を帰国させ、国内の業務に就かせるとき
労働安全衛生規則 第45条の2

(5)給食従業員の検便(労働安全衛生規則第47条)

給食従業員の検便は、事業所内の食堂や炊事場で給食業務に従事する労働者を対象に実施される健康管理措置です。雇入れ時や配置替え時に行い、食中毒などの集団発生を防止することを目的としており、利用者の安全確保の観点から重要な衛生管理の一環とされています。
事業所付属の食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者 雇入れ時または配置変え時
労働安全衛生規則 第47条

(6)深夜業従事者の自発的健康診断(労働安全衛生規則第50条の2、第50条の3)

深夜業従事者の自発的健康診断は、深夜業に従事する労働者が自主的に受診した健康診断結果を事業者に提出した場合に、事業者が事後措置を講ずることを義務付ける制度です。生活リズムの乱れ等による健康影響に配慮し、提出後速やかに就業上の配慮や健康管理を行うことを目的としています。
深夜業(基本的に午後10時~午前5時までの間の業務)に従事する労働者 深夜業に従事する労働者が、自らの判断で受診した健康診断の結果を事業者に提出した場合に、事業者が事後措置等を講ずるもので、提出後速やかに実施
労働安全衛生規則 第50条の2・第50条の3

(7)労災保険の二次健康診断等給付(労働者災害補償保険法第26条)

二次健康診断等給付は、一般定期健康診断で血圧、血中脂質、血糖、腹囲またはBMIのすべてに所見が認められた労働者を対象とする制度です。労災保険により追加の健康診断や特定保健指導を実施し、脳・心臓疾患の発症予防を図ることを目的としています。
一般定期健康診断の結果で、血圧検査、血中脂質検査、血糖検査、腹囲またはBMIの測定検査の4項目すべてに所見があると判断された労働者 一般定期健康診断実施後、速やかに実施
労働者災害補償保険法 第26条
特殊健康診断(法定健康診断)

(1)有機溶剤健康診断(有機溶剤中毒予防規則第29条)

有機溶剤健康診断は、有機溶剤を使用する業務に常時従事する労働者を対象に実施されます。雇入れ時や配置替え時、その後6か月以内ごとに定期的に行い、有機溶剤による中毒や健康障害を早期に発見し、作業環境改善や就業上の措置につなげることを目的としています。
第一種有機溶剤、第二種有機溶剤を使用して、有機溶剤業務に従事する労働者(対象の有機溶剤は、労働安全衛生法施行令別表第6の2および有機溶剤中毒予防規則第1条第1項) 雇入れ時、当該業務への配置替え時、その後6か月以内ごとに1回、定期に実施
有機溶剤中毒予防規則 第29条

(2)特定化学物質健康診断(特定化学物質障害予防規則第39条)

特定化学物質健康診断は、第1類・第2類の特定化学物質を製造・取り扱う業務に従事する労働者を対象に実施されます。業務区分に応じて定期的に行い、化学物質による慢性障害や重篤な健康被害を防止するため、継続的な健康管理を目的としています。
第1類物質、第2類物質を製造し、取り扱う業務に常時従事する労働者、または過去に当該業務に常時従事していた労働者で、現に使用している者または健康管理手帳所持者(特定化学物質障害予防規則別表第3、特定化学物質障害予防規則別表第4 業務の区分に応じ、雇入れ時、当該業務への配置替え時、その後別表第3、第4に掲げる期間以内ごとに1回、定期に実施
特定化学物質障害予防規則 第39条

(3)電離放射線健康診断(電離放射線障害防止規則第56条)

電離放射線健康診断は、放射線業務に常時従事し、管理区域に立ち入る労働者を対象とする健康診断です。雇入れ時や配置替え時、その後6か月以内ごとに実施し、放射線被ばくによる健康影響を把握し、安全な作業環境の確保と健康管理を行うことを目的としています。
労働安全衛生法施行令別表第2に掲げる放射線業務に常時従事する労働者で管理区域に立ち入る者 雇入れ時、当該業務への配置替え時、その後6か月以内ごとに1回、定期に実施
電離放射線障害防止規則 第56条

(4)じん肺健康診断(じん肺法第3条、第7条~第9条の2)

じん肺健康診断は、粉じん作業に従事する労働者を対象に実施される健康診断です。雇入れ時や配置替え時に加え、管理区分に応じて定期的に行い、じん肺の発症や進行を早期に把握し、適切な健康管理と作業環境改善を行うことを目的としています。
粉じん作業に従事する労働者 雇入れ時、当該業務への配置替え時、その後管理区分により1年以内毎に1回または3年以内毎に1回 じん肺法 第3条第7条~第9条の2

(5)石綿健康診断(石綿障害予防規則第40条)

石綿健康診断は、石綿の取扱いや石綿粉じんを発散する場所で業務に従事する労働者を対象に実施されます。雇入れ時や配置替え時、その後6か月以内ごとに定期的に行い、石綿による健康障害の早期発見と長期的な健康管理を目的としています。
石綿等の取扱いまたは試験研究のための製造に伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務に常時従事する労働者、または過去に従事したことのある労働者で現に使用している者 雇入れ時、当該業務への配置替え時、その後6か月以内ごとに1回、定期に実施
石綿障害予防規則 第40条

(6)酸等取扱い者の歯科健康診断(労働安全衛生規則第48条)

酸等取扱い者の歯科健康診断は、歯や歯周組織に有害な酸や化学物質のガス等にさらされる業務に従事する労働者を対象とします。定期的に歯科健診を実施することで、歯科疾患の予防と口腔の健康保持を図ることを目的としています。
歯またはその支持組織に有害な物質のガス、蒸気または粉じんを発生する場所に常時従事する労働者 雇入れ時、当該業務への配置替え時、その後6か月以内ごとに1回、定期に実施
労働安全衛生規則 第48条

(7)高気圧業務健康診断(高気圧作業安全衛生規則第38条)

高気圧業務健康診断は、高圧室内業務や潜水業務に常時従事する労働者を対象に実施されます。雇入れ時や配置替え時、その後6か月以内ごとに定期的に行い、気圧変化による健康障害の防止と安全な就業の確保を目的としています。
高圧室内業務および潜水業務に常時従事する労働者 雇入れ時、当該業務への配置替え時、その後6か月以内ごとに1回、定期に実施
高気圧作業安全衛生規則 第38条

(8)鉛健康診断(鉛中毒予防規則第53条)

鉛健康診断は、鉛を取り扱う業務に常時従事する労働者を対象に実施されます。定期的な健康診断により、鉛中毒や慢性障害の早期発見を行い、作業環境の改善や就業制限などの適切な健康管理措置につなげることを目的としています。
鉛業務に常時従事する労働者 雇入れ時、当該業務への配置替え時、その後6か月以内ごとに1回、定期に実施
鉛中毒予防規則 第53条

(9)四アルキル鉛健康診断(四アルキル鉛中毒予防規則第22条)

四アルキル鉛健康診断は、四アルキル鉛を取り扱う業務に常時従事する労働者を対象とする健康診断です。雇入れ時や配置替え時、その後6か月以内ごとに実施し、強い毒性を有する物質による健康障害を未然に防止することを目的としています。
四アルキル鉛業務に常時従事する労働者 雇入れ時、当該業務への配置替え時、その後6か月以内ごとに1回、定期に実施
四アルキル鉛中毒予防規則 第22条
指導勧奨による主な特殊健康診断

(1)情報機器作業健康診断

情報機器作業健康診断は、情報機器作業に常時従事する労働者を対象に、指導勧奨として実施されます。配置前および定期的に行い、視覚疲労や筋骨格系への負担など、情報機器作業特有の健康影響を把握し、作業環境改善につなげることを目的としています。
情報機器作業に常時従事する労働者(条件あり) 配置前および1年以内ごとに1回、定期に実施
情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン

(2)腰痛健康診断

腰痛健康診断は、重量物取扱い作業や介護・看護作業など、腰部に大きな負担がかかる業務に従事する労働者を対象に実施されます。配置時および定期的に行い、腰痛の予防と早期対応を図ることを目的としています。
重量物取扱い作業、介護・看護作業等腰部に著しい負担のかかる作業に常時従事する労働者 当該作業に配置する際およびその後6か月以内ごとに1回、定期に実施
職場における腰痛予防対策指針

(3)騒音健康診断

騒音健康診断は、一定基準以上の騒音作業に従事する労働者を対象に実施されます。雇入れ時や配置替え時、定期的な健診により聴覚障害の早期発見と進行防止を図り、作業環境改善や適切な保護措置につなげることを目的としています。
騒音障害防止のためのガイドライン別表1および別表2に掲げる作業に常時従事する労働者 雇入れ時、当該業務への配置替え時、その後6か月以内ごとに1回、定期に実施
騒音障害防止のためのガイドライン

(4)振動業務健康診断

振動業務健康診断は、手持ち振動工具を使用する業務に常時従事する労働者を対象に実施されます。雇入れ時や配置替え時、定期的な健診により振動障害の早期発見と予防を図り、安全な就業環境の確保を目的としています。
振動業務(手持ち振動工具を用いる業務)に常時従事する労働者 雇入れ時、当該業務への配置替え時、その後6か月以内ごとに1回(1回は冬季)、定期に実施
振動障害予防対策の概要
参考・出典

「令和7年版 働く人の健康」公益財団法人 全国労働衛生団体連合会
「e-GOV法令検索」 https://laws.e-gov.go.jp/
「厚労省ホームページ」 https://www.mhlw.go.jp/